機動戦士ガンダム0080 −木立の中で−(前編)

周りを見ている余裕などない、今はひたすらに走り続けるしかない。
後方で爆発音が聞こえた。
左腕の感覚が先ほどから感じられない。
だがいまはそんなことを気にしている余裕はない合流地点へ急がねば…


宇宙世紀0079、10月 ハワイ

薄暗い部屋
そこにある硬い椅子とパイプで作られた机に向かい
シュタイナーは何本目かのタバコにマッチで火を点けた。
彼の作戦前のいつもの行動である。
その手は忙しなく動いている。
その右後方ではミーシャが簡易ベッドでナイフを手馴れた手つきで磨いていた。
アンディはそのこじんまりとした部屋に備え付けられている鏡に向かい
鼻歌を歌いながら髪の毛のセットに余念がない。

ここは、ジオン公国軍ハワイ基地に所属する
公国海軍ユーコン級潜水艦の兵員用の小さな部屋である。

10日前、ジオン公国公王の末子であり地球攻撃軍の総司令であったガルマ・ザビが
連邦軍の新型巡洋艦とモビルスーツにより戦死したという衝撃的な情報が飛び込んできていた。
そんな折、連邦が新型量産モビルスーツの開発に成功し大量生産しているとの情報が入り
サイクロプス隊が所属する突撃機動軍の司令キシリア・ザビは
旗下のエースパイロットであるジョニー・ライデン少佐率いる部隊及びサイクロプス隊に対し
その新型量産モビルスーツの調査およびルナツーへの輸送阻止命令を出していた。


彼らがこれから向かう場所は南米
連邦軍の本拠地のある大陸への潜入任務である。

ジャブローの正確な位置は未だジオン軍は掴んではいない
彼らが潜入するのはジャブローがあるであろうと推測される地点の西方
アンデスの山々が連なる中にある連邦の基地であった。
そこに例の新型量産モビルスーツがあるという確証はなかったが
最近トラックの出入りが頻繁になっていた場所であった。
「間もなくか」
その言葉を聞いたミーシャとアンディの動きが一瞬だけ止まった。

出港して1週間後。

艦橋から若い兵士が声をかける
「ご武運を」
「ありがとう」
シュタイナーは口の端を上げそれだけ言うと上陸用ボートへと降りていった。

「新入りには少し荷が重かったかもしれん」
ミーシャがボートを操縦しながら呟いた
「ニックがついている問題はない」
シュタイナーはそれだけ言うとまだ微かにしか見えない大陸へと視線を移した。

その頃シュタイナーたちとの合流地点付近の朽ち果てた民家の中に2つの影があった。
サイクロプス隊の別働隊としてここ10日あまり先回りをしていた
ニック・ボウジャー准尉とガブリエル・ラミレス・ガルシア軍曹である。
「またか…」
そう呟いたガルシアが見やった先には寝ているニックの姿があった。
この浅黒い金髪の男は、初めて会ったその日からいつもこの調子である。
今回の別働隊の任務である整備作業の殆どをガルシアに任せ
自分は日がな一日寝てばかりいたと思いきや
夜になるとどこへともなく出かけ朝まで帰って来ない
そういったことが続いていた。
「准尉、そろそろですぜ」
ガルシアが声をかけるとチラッとこちらを見て
「まだ少し時間がある…隊長が来たら起こせ」
それだけ言うと背を向けてしまった。
「チッ」
舌打ちをこの10日間何度したことか…

彼ら2名の役割は陽動用のマゼラアタック2両と最新型の陸戦用モビルスーツMS-09ドムの搬入作業であった。
陽動作戦中に徒歩で潜入した2名により連邦の量産モビルスーツの情報を手に入れ撤退する。
これが今回の作戦の概要である。

ニックとガルシアの両名は民間船に艤装した船に載せられた
マゼラアタック2両とドムのパーツを10日間で整備・組み立て
シュタイナーたちの到着を待っていた。

ガルシア自身がサイクロプス隊に転属してきたのは2ヶ月前
その前は地球降下作戦後、北米戦線を転戦していた1パイロットだったのだが
北米に残る連邦軍の要衝レイクチャールズへの攻撃において連邦軍の執拗な反撃により
ガルシアの所属する部隊が壊滅状態に陥り、その結果ジオンは北米連邦勢力圏への侵攻が鈍ってしまった。
所属する部隊を失ったガルシアはグラナダに呼び戻されそこでサイクロプス隊への転属を言い渡された。

崖沿いの山道を走る1台のトラック
「ん?」
ミーシャが怪訝そうな顔をしながら前方を睨んだ
「連邦の検問か」
シュタイナーは慌てるそぶりもなく前方を見遣った
連邦兵が2名歩哨に立っていた。
「止まれ!」
連邦兵の1人がトラックを止めた
「なんですかい?こんなとこで」
シュタイナーが聞いた。聞きながらももう一人の連邦兵にも気を配っていた。
「この先に我が軍の基地がある用心のためだ積荷を確認させてもらうぞ」
連邦兵はそう言うとトラックの荷台へ回った
「こんな山ん中までご苦労さんで」
そう言うとミーシャに目で合図をした
合図を確認したミーシャは懐からナイフを出して袖に隠した。
「オレが開けるよ」
そういうとミーシャは車を降り荷台へと向かった。
荷台には彼らが持ち込んだ銃火器類とアンディが待ち構えていた。
幌をミーシャが開け荷台へと上がってきた連邦兵を消音器付きの銃で銃撃した。
発砲は2発正確に心臓と頭を貫いた。
残った連邦兵をミーシャが背後から襲いナイフで喉をかき斬った。
あっという間に2名の連邦兵を倒した彼らが連邦兵の遺体から制服を脱がし終った頃
歩哨の持っていた無線機から
「パトロールD応答せよ」
定時の連絡らしき声が聞こえた
「こちらパトロールD」
アンディが答える
「定時連絡だ異常はないか」
「よく聞き取れんもう一度言ってくれ」
「定時連絡だ異常は?」
「くそっまたイカれやがった」
「了解パトロールD明朝帰投せよ」
そう言って無線は切れた。
どうやら日常的な事柄らしい。

「呑気な連中だな」
横で聞いていたシュタイナーはそう言うとミーシャらと共に先ほどの遺体をトラックに乗せ
積荷を降ろしトラックのアクセルを固定し谷底へ突き落とした。

その後連邦兵が乗ってきたと思われるエレカに荷物を積みその場を後にした。
「ニックの寄越した情報通りってわけだ」
そのミーシャの言葉を聞いたシュタイナーは口の端を上げて笑った。

合流予定時刻からすでに30分が過ぎていた。
「遅いな…」
時計を見ながらガルシアは外を覗きこんだ。
するとライトの光源が近づいてきた。
しかしよく見ると車が違う
3日前に自分が用意した旧式のトラックではない。
「准尉、厄介なことになりましたぜ起きてください」
そう言ってニックを起こす
「…ん…なんだ?着いたのか?」
眠そうに目を擦りながら聞き返す
「大尉たちではないかもしれません…一応用心を」
そう言うと懐から銃を取り出した。
「…そうか」
それだけ言うとニックも自分の銃を取り出し臨戦態勢になっていた。
光源が近づきすぐ側で消えた。
一気に緊張感が増す。
足音から察すると相手は3名
もし連邦兵士だとすると状況的に不利だと考えたニックは
ガルシアに
「もし相手が隊長たちでなく連邦兵ならお前は確実に一人を殺れ」
そう命令をした。一人減れば人数的には五分と五分そうすれば勝機もあると踏んだ。
「了解」
ガルシアも迎撃態勢をとった。

足音が近づく、そしてドアの前で止まった
銃を構えるガルシア
その時
「冷えたベッドは空いてるか?」
それを聞いたニックが
「へ…生憎ベッドはないぜ」
そういうとガルシアに手を向け制しながらドアを開けた
ここにサイクロプス隊が揃った。

「ようガルシア生きてたか?」
スキッドの酒を呷ったミーシャが聞いてきた
「おかげさんで…」
そう答えたガルシアを見やったシュタイナーが
「早速だが見せてもらおう」
そう言うとニックとガルシアがマゼラアタックとドムを隠してある
裏の林へと3人を案内した。

「マゼラアタックの整備は万全ですがドムの方はまだホバーの微調整が残ってます」
ガルシアはそう説明した。
ドムを見上げたミーシャが
「こいつが新型か」
そう言うとコックピットへと登っていった。
「了解だ。ミーシャと俺でこいつの微調整をする。ガルシア、お前はニックたちと最終準備に入れ」
「明後日の1500時に作戦を開始する」
シュタイナーはそう伝えた。
ドムの反応炉が始動しモノアイが光った。



以上が前編です。
処女作品ということで言い回しだったり色々問題が多いかもしれないけども…
内容としては0080本編前のサイクロプス隊の活躍を書こうとしたものです。
後編ではもう少し色々変化をつけたいなーと思ってます。
ニックは完全なオリジナルキャラです。
後編でもう少し掘り下げられるような方向にしたいですな。
ガルシアが1年戦争の前から隊にいたのかどうかは分かりませんが
今回は途中で配属されてきたという設定で物語を進めています。


後編

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